ピカソの若き日に描いた「科学と慈愛」という作品がある。重い病にかかった患者が、中央のベッドに横たわっている。その傍らに医者と赤ん坊を抱く修道女が付き添っている構図になっている。
医者は科学を表し、修道女が慈愛を表しているこの作品はやや概念的とも言えるが、この作品をピカソ本人が終生大事にしていたということがとても気になる。
医者は父性の象徴で、修道女は母性の象徴とも考えられる。男性性と女性性は違った性質のものだと思うが、世界もしくは宇宙はそうした違った性質の両者の調和、均衡のもとで成り立っているのかもしれない。
最近、相反するもののバランスについて考えることがよくある。
整体においても、体と心に触れることから物理的な論理や構造と、物理的に触れることのできないものに対して感応していく感性の力の両方を磨いていく必要性を強く感じるようになった。
良い施術は、そうした論理と感性が一体化した瞬間なのかな、などと考えている。
最近観た坂本龍一氏の生前最後の演奏を記録した映画「Ryuichi Sakamoto/opus」で彼はまるでピアノと一体化しているようだった。一音一音に気がこもり、こちらの心の奥の方まで響いてきた。彼の最後の演奏を聴いて、彼がもともと論理的な思考力と、稀有な感性の持ち主であったことと、東洋と西洋の旋律を融合し、相反しているものを見事に調和させている表現者であったことがよく理解できた。
ほど遠いとはいえ、この演奏のような仕事ができたらなと思った。